こんにちは、国際不動産エージェントManachan@ケアンズ滞在中です。今日も元気にオーストラリアねたでブログ執筆。今回のテーマは、同国二大都市「シドニーvsメルボルン」のライバル関係。
シドニーもメルボルンも、都市としての歴史は、英国人の入植地になってから始まります。その時期は、シドニーが1788年(オーストラリアで初)で、メルボルンは1835年(同4番目)。その後、ゴールドラッシュでメルボルンが大発展して最大都市になり、20世紀初頭にシドニーが大発展してメルボルンを追い越し、そのライバル関係は今日でも続いています。
オーストラリア連邦の首都はシドニーでもメルボルンでもなく、その中間のキャンベラに定められ、二大都市は今日でも、シドニーらしく、メルボルンらしく、発展・拡大を続けています。そして、いずれの都市も、夏季五輪開催の経験があるなど、国際的に高く評価されています。
今はどうなのか?シドニー圏の人口が500万人、メルボルン圏の人口が460万人と、シドニーが8%ほど上回っていますが、その差は年々、少しづつ縮まっています。直近の人口成長率は、シドニーが1.7%に対して、メルボルンが2.1%と上回り、ざっくり言うと、「毎年、シドニーが約9万人増えて、メルボルンが10万人増える」傾向が続いています。
この傾向が今後ずっと続けば、メルボルンの人口は21世紀中盤にシドニーを追い抜くのではないかと予測されています。その時期は識者によって2053年とも、あるいは2036年とも言われています。もっとも、人間にそんな先のことを予測する能力があるはずないので、私は話半分に聞いていますが…
ただ、シドニーの方がメルボルンに比べて、都市の拡大が難しい構造的要因は、確かにあります。それは「地形」。
シドニーは、東側を海、北側と南側を山(国立公園)に囲まれた、起伏の激しい地形で、平地が豊富ではありません。都市が拡大しようとすれば、都心近くを高層化するか、都心から遠く離れた西部郊外の平地(Cumberland Plains)を、新興住宅地として開発する以外にありません。すると、都心近くでは不動産価格高騰、西部郊外では都心まで40~50㎞以上の長距離通勤と渋滞が、ボトルネックとなってきます。
一方メルボルンは、南側こそ海ですが、それ以外の方角は平坦地が続き、都心からみてどの方向にも新興住宅地を開発できる状態にあります。
日本でいうと、メルボルンの地形は関東平野に似ていて、南側の海(東京湾)以外は神奈川にも多摩にも、埼玉にも千葉にも、どの方角にも住宅地を拡大できる状況なのに対し、シドニーの地形は大阪平野に似ていて狭く、海や山に遮られて住宅地拡大の余地があまりないのです。
シドニーは、その地形的要因もあって住宅価格や家賃が高く、海外からの移民はたくさん来ますが、オーストラリア国内ではメルボルンやブリスベンに人口を流出させています。高学歴・高収入の人を含めて、シドニーの一部の人々は、より安く広い家が買えるメルボルンやブリスベンに引っ越していくのです。
最大都市の地位を、いずれ失うのではないかという、シドニー側の不安と焦りは、この文章からみてとれます。
Why Sydney is on course to lose its status as Australia’s biggest city
作者Matt Wade氏の問題意識は正しいと思います。彼が指摘する通り、
・シドニー圏のなかで、都心(CBD)の位置は、遠く東に偏りすぎている。
・地形的要因により、シドニーの住宅地は西に広がるしかないが、西部郊外に住む人にとって、遠いCBDへの通勤は辛いし、大きな損失になっている。
・したがってシドニーの西部に、専門的職業を含む雇用を沢山つくる必要があるが、現時点でシドニー全体の金融、ビジネスサービスの雇用に占める西部の割合は17%に過ぎない。
・西部の中心都市パラマタ(Parramatta)をCBD並みに大開発して都心機能をつくり、リバプール(Liverpool)やペンリス(Penrith)のビジネス機能を発展させ、「雇用機会の東西格差」を解消することが、都市シドニーの発展には欠かせない。
まさに、そうなんです。シドニーの将来は「西」にしかないし、パラマタはじめ西部の都市を発展させない限り、いずれ、メルボルンに追い越され「第二の都市」に甘んじてしまう…前からそれが分かっているから、シドニーのあるニューサウスウェールズ州政府は、巨額の公費を通じて、10年前からパラマタを「西の副都心」として整備してきたのです。
最近、その成果がようやく出て、西部でパラマタだけは大発展し、ホワイトカラー中心に9万人の雇用を生み出すビジネス都市になりましたが、交通インフラ含めて、未だ建設途上。その他の西部の都市は、正直言って微妙。特にリバプールとか、本来もっと発展すべきなんだけど…
シドニー第二空港が、西部のBudgerys Creekに建設が決まったので、空港のゲートウェイとなるリバプールやペンリスが大発展して、今のパラマタ位の都市レベルになることを望みます。それができて初めて、シドニーは「東シドニー」と「西シドニー」の二枚看板になり、21世紀の国内最大都市の座をめぐるメルボルンとの競争で、初めて優位に立てるのだと思います。
一方メルボルンですが、地形的に恵まれ、都心(CBD)から通勤圏内にいくらでも住宅開発できる事情もあって、都市の命運をかけて第二都心を建設する必要には迫られていません。
しかし近年は、住宅価格が高騰し、特に南東側は50㎞以遠のPakenham, Cranborneあたりまでベッドタウンが広がってきた関係で、CBDまでの長時間通勤、渋滞が問題になってきました。
近年では、メルボルンCBDから南東へ30㎞郊外の中心都市ダンデノン(Dandenong)を、副都心らしく整備しようとする動きもみられます。将来、ダンデノンが第二都市になれば、それ以遠の郊外に住む、100数十万人に職場を提供することで、CBDまでの渋滞も緩和されるからです。
ダンデノンをパラマタと同様のモデルで、メルボルン圏の第二都市に育てようと主張する識者もいます。
Develop Dandenong as 2nd CBD
確かに、今のダンデノンは、「大きい街だけど、垢抜けない、イメージも良くない」という意味で10~15年前のパラマタによく似ているし、ヴィクトリア州政府はここ2年で、ダンデノンの駅近くに「税務署」や「裁判所」を新設するなど、かつてのパラマタを意識した都市開発を行おうとしているようにも見受けられます。
とはいえ、ダンデノンが10年後に、今のパラマタみたいに大発展するのかは、まだ未知数です。土地に余裕のあるメルボルンは、シドニーほど切実に、「第二都市」を必要としていないと思うからです。また、ダンデノンよりさらに都心寄りに、ボックスヒル(Box Hill)という、大きな街もあるため、州政府がダンデノンに集中投資するのかどうかも未知数。
関東平野に似た地勢から、将来のメルボルンは東京首都圏のように、「都心」と「5つか6つくらいの副都心」からなる都市構造になるのではないかと、私は予想しています。もちろん、ダンデノンやボックスヒルが「副都心」のひとつになるのは確実でしょうが…
最後に余談。千葉県・松戸駅の駅ビルは「ボックスヒル」という名前ですが、その由来はメルボルン郊外の「ボックスヒル」なんですよ。ボックスヒルを含むホワイトホース市が、昔から松戸市と姉妹都市なんですよね…