東南アジア都市進化論

こんばんは、国際不動産エージェントManachanです。
先日、資料作成の調べものをしていた時に、ベトナム・ホーチミン市で建設予定の都市鉄道マスタープランをみました。6路線、全長107km・・・今のところ、市民の移動手段としてはほぼバイクしかないところに、近代的な交通システムができ、「下手したらバイクで1時間以上かかった移動が15分で済む」ようになり、この街も大きく様変わりすることでしょう。
【ホーチミン地下鉄将来図】(2025年頃?)
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ホーチミン市の都市鉄道、6路線が整備されるのはいつ頃でしょうか?先行するメトロ1号線や2号線が2020年頃の開通、他の路線も順次完成と聞いていますから、出揃うのはたぶん2025~30年頃でしょうか。この路線図をみて、思ったこと、
「ホーチミンは、あと10年かけて、今のバンコクとほぼ同レベルになる気なんだな・・・」
 
現時点で、バンコクの都市鉄道は4路線(BTSスクンビット線、シーロム線、MRT地下鉄線、エアポートリンク線)、総延長も100㎞強ですから、ホーチミン未来予想図(6路線107㎞)と似たようなものですね。もっとも、バンコクではパープルライン、オレンジラインはじめ、新鉄道建設や延伸が急ピッチで進んでますから、2025年にはホーチミンのずっと先を行ってるでしょう。
 
【現在のバンコク鉄道路線図】
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そのホーチミンも、隣国カンボジアのプノンペン、ラオスのビエンチャンなどに比べればずっと都市機能豊かで成熟してますから、東南アジア、特にインドシナ半島部では、「バンコクこそ皆の目標」であり、「都会度のベンチマーク」といって過言ではないと思います。
同じ東南アジアで、先発と後発、いろんな発展段階の都市があるなかで、私は、次のような整理をしています。
 
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【都市化以前の段階】
東南アジアは、熱帯の湿潤地帯で、農業と人口扶養力が豊かな地域なので、とにかく「人間はたくさんいる」。近代インフラがろくになくても、農村人口が集まっただけで、都市部はすぐ過密(1万人/㎢以上)になる。また人々の住まい方も温暖湿潤ゆえ、寒冷地や砂漠地帯と違って集住する必要がなく、基本は「土地付き一戸建て」が中心。さらに、東南アジアはどこでも、道路インフラが鉄道インフラに先行して整備されるので「クルマ社会」が基本・・・そういう共通の条件があるなかで、経済発展とともに、首都に人口が集まっていきます。
 
【都市化、第一段階】(低所得国の首都型)
今でいう、カンボジアのプノンペン、ミャンマーのヤンゴン、ラオスのビエンチャンなどが典型的ですが、まず、ある程度の道路・電力・上下水道インフラや、商取引の制度などが整った上で、欧米日中タイなどの「外資」が入ることにより、経済発展が本格化し、中間層が育ち始めます。各国の首都や最大都市に雇用機会と人間が集まり、過密化。クルマも増え、道路の貧弱さとあいまって交通渋滞が深刻化します。政府は、道路の拡幅整備に注力するとともに、クルマを持たない庶民層への交通手段として、路線バス等を整備します。
この段階での人々の住まい方は、「土地付き戸建」を強く志向しますが、地価がどんどん上がり、中間層が土地付きを買おうとすれば遠い郊外に出ざるを得なくなるため、都心近郊でアパート、コンドミニアムといった「集合住宅」がつくられ、ライフスタイルの都市化がはじまります。そうして、都市住民がどんどん増えると、もはや、道路交通だけでは都市機能が維持できないので、都市鉄道(地下鉄、モノレール、LRTなど)の建設が必然的になります。最初の鉄道が開通し、市民の電車通勤が実現することになると、第一段階を卒業して、次のフェーズに進みます。
 
【都市化、第二段階】(中所得国の首都型)
タイのバンコク、マレーシアのクアラルンプール、フィリピンのマニラなどがこの類型かと思いますが、都市鉄道が2路線、3路線と整備されてくる頃には、都市構造も複雑化、都心CBD(業務中心地区)を二つ以上持つようになり、これらが鉄道で結ばれるようになります。例えば、バンコクにはすでに「シーロム」、「サイアム」、「アソーク」という3大CBD、クアラルンプールにも「KLCC&ブキビンタン」、「セントラル」という2大CBDが形成され、すでに鉄道で直通可能。マニラはこれからですが、「マカティ」、「BGC(ボニファシオ・グローバル・シティ)」の2大CBDを結ぶ鉄道をつくらざるを得ないでしょう。
この頃には、都心~近郊の鉄道・道路網がネットワーク状に整備され、このエリアでは「集合住宅」が主流の住まい方になります。住宅費の高騰ゆえ住居面積は狭くなり、子供の教育費や要求水準も上がるため「子育てコスト」が意識されるようになり、都市部では少子化が進むのもこの段階に顕著な傾向です。この時期を卒業すると、いよいよ先進国入りに向けた「都市化・第三段階」がはじまります。バンコクとクアラルンプールはすでに、卒業間近な印象があります。
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この整理のなかで、ベトナム最大の都市・ホーチミンはどこに位置づけられるのかというと、私の意見では、「第一段階を間もなく卒業」だと思います。この街に、これまで鉄道がなかったのが不思議な位、都市機能は成熟し、都市的な住居スタイルも普及しているし・・・その意味では、すでに都市鉄道を持ち、第二段階入りした「マニラ」に近い都市レベルにも見えます。全体的にみると、僅差で、マニラの方が上かな。でも中間層の分厚さではホーチミンが勝るようにも見えます。その代わり、マニラにはまだ所得で及ばないし、マカティ、BGCみたいなワールドクラスなCBDはまだないけど。
いずれにせよ、そう大差ないレベルにある、マニラやホーチミンが、あと10年で、今のバンコクのレベルに追いつく。そのバンコクは、第二段階をもうすぐ卒業・・・みたいなイメージでとらえています。逆に、後発のプノンペンやビエンチャンは、あと10年間発展を続けて中間層を育てて、今のホーチミンのレベルまで追いつくかどうか、ですね(プノンペンは、できるかもしれないが、人材面など課題も多いですね…)。
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では、「みんなの目標」バンコクの10年後は、どうなるのか?2025年頃には、総延長400㎞を超える、都市鉄道網がネットワーク状に整備される予定で、それをみると、「バンコクは、本気で先進国都市レベルを目指しているんだな」と思います。全部完成すれば、鉄道網は、現時点でのソウルや台北のようなレベルになる。
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同時に、今後10年で、バンコクを中心とするタイは少子高齢化に悩まされ、産業の周辺国移転による産業空洞化も進むでしょう。労働力人口も頭打ちになり、慢性的な低成長になるかもしれません。日韓のようなアジア型の先進国を目指せば、先進国の悩みも同時に抱え込むことになるわけですね…
ま、それもそれで、ほぼ歴史の必然といえるのでしょう・・・結局、東~東南アジアには、時差しかないと思います。先発、後発の違いはあっても、ほとんどの国が、似たような発展過程をたどる。一極集中型の首都、豊富な労働力を使った工業・サービス業の発展、都市型ライフスタイルの普及、そして少子化、高齢化、低成長という成熟段階に至る・・・
 
同じような肌の色と、顔つき、米を中心とする食文化が似ているだけでなく、経済発展すれば、ライフスタイルまでも似通ってしまう・・・時差というファクターを取り払えば、アジアの国々や都市は結局、どこもほぼ同じに見えます。だからこそ、アジア圏で一番早く経済発展を経験した日本で生まれた幸運を活かしたいですね。ある意味、日本で育つことによって、同じアジアの国々の未来が見えているわけだから…

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