シドニー版「ヒルズ族」のプライドと不動産考察

こんにちは、国際不動産エージェントManachanです。2泊3日滞在したシドニーを後に、次の目的地メルボルンに向かうところです。今回はシドニー不動産ねたで書きますね。
 
世の中、「賑やかな都会や繁華街」が好きな人と、「ハイソ感のある落ち着いた郊外住宅地」が好きな人がいますよね。これは個人の好みの問題で、都会派に言わせれば郊外住宅地は「不便な田舎」に見えるし、ハイソ住宅地派の価値観からすると、賑やかな繁華街は「ごちゃごちゃしてガラの悪い場所」に見えます。
好みが違うだけならまだしも、そこに「社会経済的地位」(socio economic status)の問題が絡んでくると、別の地区を見下したり、馬鹿にする態度につながることがあります。この現象は「プチ・リッチなアッパーミドル層の住宅地」を中心に、社会各層に存在します。
日本でいえば、首都圏の東急沿線の、アッパーミドルな住宅地が分かりやすい例かと思いますが、
 
– 東急田園都市線(田都)の沿線は、溝の口駅でJR南武線と交差するが、一般に田都沿線は南武線エリアよりハイソでステータスが高いという価値観が存在する。
– したがって、鷺沼、たまプラーザといった田都の駅を生活圏とする人々は、南武線の通る「溝の口」駅や「川崎」駅エリアを、ガラ悪いとかいって見下すことがある(注.南武線でも武蔵小杉は別格ゆえ見下されない…)
– 逆に、「川崎」駅エリアに住む人からすると、田都住民に見下される価値観が理解しがたい。交通も買い物も、川崎駅の方がはるかに便利で都会なのに、なぜ?…となる。
 
こうしたミクロな地域対立は、他地域からみて滑稽に映ることがあります。たとえば、東京の山手線内側や城南地域の住民に言わせれば、「所詮、神奈川のレベルで、なに争ってるの?」と一笑に付されたりするわけです。
また、ここに価値観や感性の違いも関わってきます。上述「田都沿線vs川崎駅」のステータス争いの場合、私は川崎駅を断固支持します。なぜなら私は柏の駅前育ちで、都会や繁華街が好きな利便性重視の人間。天下のJR東海道線が通り、東京駅へ直結20分、ラゾーナはじめ商業施設充実した川崎駅の方がどうみても格上じゃん、という価値観なのです。でも、万人が同じように考えるとは思いません。同じ柏エリアでも、柏の葉や、流山おおたかの森のような、新興住宅地を選んで移住してきた方々の間では、多分、田都沿線を支持する意見が多いと思います。
これは日本だけでなく、ここオーストラリアでも多分にあります。比較的若い国で、本国イギリスほど固定した階層がまだないし、移民も多く流動している社会であるがゆえ、「俺らは、〇〇に住んでる人間よりは格上だぜ」みたいな、ミクロな地域ステータス競争に走りやすい国民。その点は日本人と比較的似ていると思います。
 
で、シドニーのなかで、一番分かりやすい例が、都心から25〜40km離れた郊外、緑豊かな新興プチリッチ住宅エリアとして発展中のNorthwest地域です。
ここは丘陵地で、Pennant Hills, Castle Hill, Rouse Hillなど、「なんとかヒルズ」な地名が多いため、Hills Districtとも呼ばれます。地形的にも社会的ステータスの面でも、首都圏の田都沿線とカラーの良く似たエリアといえますね。
で、このHills Districtに住まう人々が、いつしか「ヒルズ族」と呼ばれるようになりました。
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シドニー在住日本人の間でも、近年はヒルズ族が増加中。日本人は昔も今もChatswoodやNeutral Bayを中心とする、裕福層の多いNorthshore(所謂「ノース」)地域を好んで住む者が多いのですが、近年、このエリアの賃料や不動産価格が高騰したので、
彼らはChatswood から西へ進み、North RydeやEppingを経て、Castle Hill方面に移り住むトレンドが続いています。その結果、「ヒルズ族な日本人奥様」が増殖中な今日この頃なのです。
東京でいうと、「本当は世田谷区の用賀やニコタマに住みたいけど無理なので、多摩川を渡って田都沿線の青葉台や藤が丘に住む」ようなもんですね。
 
しかし、神奈川県民になった彼らもプライドを維持しなければなりません。それを支える強烈な武器が「田都沿線ブランド」と「横浜市青葉区アドレス」。
一方、シドニーのヒルズ族にとっては、NorthWestとかHillsという地域名が、プチブルなステータス感やプライドを支える根拠になっています。ここに「North」が含まれているのが大事なポイント。
「私たちはWestじゃなくてNorthWest住みなのよ。ノースが入っているのよ…」
という地域プライド。それを維持するために、パラマタ(Parramatta)を中心とするWest地域を見下すのが、ヒルズ族のお約束。ここで「ノース」という単語が水戸黄門の印籠のような役割を果たすのは言うまでもありません。
 
ところで、私はパラマタに住んでいました。ここはWest地域で最大の都市にして、シドニー圏でもシティに次ぐ第2位の規模と雇用者数を誇る副都心。駅直結の巨大ショッピングモールに、大企業のオフィス林立、警察本部に裁判所、総合病院に大学、名門高校、何百軒のレストランやカフェ…駅徒歩圏で何でも揃う都会です。「ヒルズ」に住んでパラマタの職場で働いてる人はたくさんいます。
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しかし面白いことに、ヒルズ在住で都会なパラマタを馬鹿にする人が結構多いのです。正確に言うと、パラマタを中心とする広大なWest地域を、貧乏だのガラ悪いだの言って馬鹿にするわけですが…
それは、ノースの成分の入ったNorthWest地域のプライドを維持するための「ヒルズ族」の自然な生理なのだと、私は理解しています。人間って良くも悪くも、誰かを下に見ないと、ステータスやプライドが維持できない生き物だよね。
でもって、そういうヒルズ族のプライドが、この地域の不動産価値やアッパーミドルな土地柄を維持している面もあると思います。日本でも、埼玉の浦和が大都会な大宮より不動産価値高いのは、文教地区のプライドのおかげだよね。
 
最後に、都会派パラマタ住人の私から、一言いわせて下さい。
「ヒルズ族が、プライド維持のために俺らを馬鹿にするのは分かるけど、自分の住所と分際をわきまえようね」
「ヒルズでもPennant Hillsあたりの住民に言われるなら、まあ納得するけど、Baulkham Hillsとかに住んでパラマタを馬鹿にするのは、恥ずかしいからやめようね。あなたたちの住んでる場所は、ヒルズの名前がついてるだけで、実質はパラマタ郊外でしょう?」
このように、居住地と社会ステータス競争は、どの国でもあります。不動産に関わる上で避けては通れないトピックなので、さらに考察を深めていきたいと思います。

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