こんにちは、国際不動産エージェントManachanこと鈴木学です。前回に引き続き、今回も「日本人のイケてない海外不動産買い」に関して、がっつり辛口のコラムを書きます。
本題に入る前にまず、一つ喜ばしい出来事がありました。数年前からアメリカ不動産を日本人で紹介していたある業者が、「当社はこれまで買取転売をやってきましたが、お客様の投資利益を考えて仲介にシフトしました」との報告をくれたのです。
その会社がアメリカで買取転売やっていた2014~15年頃の状況を、私は知っています。「競売やショートセール(任売)で安く出た中古物件を、現地のパートナー業者を使って再生して、自社保有して賃貸に出す。それを日本の客向けに投資物件として販売し、日本語で管理サービスもやる」というビジネスモデルでした。
販売する際、当然ながら、売値に自社利益を乗せるわけですが、その利幅は業界標準からみて、控えめなものでした。「リスク取って手金出して物件を再生」 して、「言うこときかないアメリカ人業者の仕事を監修 」 して、「販売経費かけて、決断が遅くてその割に細かい注文の多い日本人客を相手に」売り、「契約書の説明や送金サポート、税務申告の手配などまでお手伝いする」 という業務の手間と苦労を考えた時、約15%という利幅は極めて穏当だと私は思いました。同じモデルの商売なら普通は20%以上乗せるのが当たり前だし、50%近い利幅を乗せて涼しい顔で売る業者が居るのも知ってましたから…
でもその業者は、買取転売の商売を数年やるうちに、悟りました。「たとえ15%でも、利益を乗せてお客様に売ってしまうと、投資として成功するのが難しくなります」。
それでどうしたか?「商売の難易度は格段に上がりますけど、仲介として、数%の手数料をいただくモデルに変えました。これだと収益物件を市場価格で買えるので、弊社から買ったお客様が損するリスクは少なくなります」…なんて素晴らしい決断!心の底から賛同したのは言うまでもありません。
ところで、2016年に入ったあたりから、日本の不動産業者が、テキサス州を中心に大量参入する動きが始まりました。折しも、アメリカ国内は経済も不動産市況も好調で、ほぼ全国的に物件価格が上昇基調。こんな時代に、競売や任売で安く仕入れるなんて普通はできません。日本人に売るネタ(≒快速減価償却ができる築22年以上の木造戸建)を仕入れたければ、通常のマーケット価格で仕入れるしかありません。
通常のマーケット価格で仕入れる…具体的にいえば、地元のアメリカ人が30万ドルで買ってる戸建を、日系業者が30万ドルで仕入れるということです。ま、業者は現金持って実弾買いができますので、運とタイミングが良ければ27~28万ドル位で仕入れられることもあるでしょうが、逆にテキサスあたりでは、複数の日系業者が、「築22年を少し超えた木造戸建」という、アメリカ人が普通狙わないニッチな物件を同時期に仕入れまくってますから、仮に同じ物件をめぐって競合したら、当然、安い値段では仕入れられなくなります。
その後、どうなるか?各社とも商売ですから、ほぼ市場価格で仕入れた物件に、自社利益を上乗せして日本人客に売るわけです。乗せる幅は、会社や都市によっても違いますが、私が見聞する限り、20%前後が標準的なようです。
20%の利益が乗ったものを買う。つまり、地元のアメリカ人が30万ドルで買ってる物件を36万ドルで買うということです。高く買ってる代わりに、売買契約に日本語サポートがつき、日本語で管理してくれて保証家賃も支払われる、何より、日本で節税メリットが受けられるということで、実際たくさんの方が買っています。
私は投資家なので、相場よりも値段が乗った物件は絶対に買いません。ただ、世の中こういう商売はあって良いと思います。普通の日本人が手も足も出ない海の向こうの物件を買いやすくしてくれて、日本語で付加サービスをしてくれる…多少高買いしても、サービスの対価としてお客様が納得できるものであるなら、この商売も持続発展していくのでしょう。
ただ、次の点は気になります。
現地の人が買うより高い値段で売っていることを、業者がきちんと説明しているのか?
ま、100%間違いなく、説明してないでしょうね。その場合、客として気をつけねばならないのは、「元本価値毀損リスク」。つまり、数年先に物件売りたくなった時に、買った値段より安い値段でしか売れないリスクです。
分かりやすくするために、テキサス州ダラスの不動産価格指数(ケース・シラー指数)を使って説明します。
・2016年初に日系業者経由で買った場合、価格指数(=相場)が「160 」のところ、20%上乗せした値段で買ったら「192」で買うことになる。
・2017年初に日系業者経由で 買った場合、価格指数(=相場)が「170 」のところ、20%上乗せした値段で買ったら「204」で買うことになる。
・2018年初に日系業者経由で買った場合、価格指数(=相場)が「180 」のところ、20%上乗せした値段で買ったら「216」で買うことになる。
ダラスの不動産価格指数が、2013年以来、年率5~10%で上がってきているのは事実です。それでも、20%上乗せ分を価格上昇で吸収するのは、少なくとも3年以上はかかります。
なお、2018年以降、価格上昇のペースが目にみえて鈍ってきていること、直近ではほぼ上昇していないことも、図からみて取れると思います。一番面白くないのは、2018年に「216」で買っちゃってる人でしょうね。直近の価格指数は「187.93 」 。前月比プラス0.03%とほとんど上がってませんから、現時点で売ったら元本割れは確実だし、あと何年待てば損しない価格で売れるのか、予想もつきません。
少なくとも、海外物件買う側が知っておくべきことは、
・海外不動産を扱う日本の業者は、売値に利益乗せてるケースが多いこと。
・現地相場からみて、適正価格で売っているかどうかを気にすべきだし、その際、業者の言うことを鵜呑みにしないこと。
もっとも、自分で判断するのは難しいかもしれません。個別相談枠を使ってセカンドオピニオンを得ることはできますので、必要ならいつでもご相談くださいね。