【ブログ】アジアの不動産おたく、欧米に出会い、魅せられる

こんにちは、国際不動産エージェントManachanです。
私は2011年に日本初の国際不動産投資家コミュニティ「アジア太平洋大家の会」を立ち上げて、今なお活動していますが、今やその当人は「アジア」でも「太平洋」でもないヨーロッパやアメリカ東海岸の不動産にすっかり魅せられ、もはや「アジアの不動産」関連の活動など、片手間程度しかやらないようになってしまいました。
今や私は、ドイツとかエストニアとかスペインの中古不動産を紹介しつつ、投資仲間から「アジアでも太平洋でもないじゃん?」と指摘されたら、「俺らアジア人が世界の不動産買ってるんだから間違いとはいえない」みたいな屁理屈で答える始末。
 
自分がなぜ、かくも欧米大好きになったのか?たぶん、不動産投資や建物が好きでたまらないからだと思います。今や私の持論ですが、
 
・不動産投資おたくであればあるほど、最終的には欧米にいきつくはず。
・なぜなら、欧米に不動産があれば、築年が経っても価値が毀損しない、とてもフェアな条件で安心して投資ができるから。
・また、物件が欧米にあるからこそ、建物を使い捨てにせず、大事にメンテしながら使い、価値を高める投資がやりやすいから。
・ひるがえって日本の不動産、将来目指すべき方向性を考えると、明らかに欧米に多くヒントがある。
・欧米で不動産投資運営の経験を積めば積むほど、日本の不動産運営をより豊かに、高収益にするヒントが得られる。
 
その背景には、建物のつくりすぎ、使い捨て、資産価値の毀損を後押しする日本の社会システム・業界構造・融資慣行に対する嫌悪感があります。私は不動産投資家なので、資産価値の毀損が生理的に大嫌いなんです。
いま日本で海外不動産セミナーといえば東南アジアがメインですが、上記の問題意識を持つ不動産投資家としていえば、いま東南アジアを目指す積極的な意味が見出せません。そこには本質的に、日本の過去があるだけで、未来像がありません。むしろ、日本の後追いをして、日本以上にエグイ速度で新築コンドミニアムや商業ビルを過剰供給して、(長い目でみれば)空室と産業廃棄物を大量につくりまくる光景ばかりが目立ちます。
もちろん、今の東南アジアはかつての日本がそうであったように、人口ボーナスや都市集中が続いているおかげで、建物の価値が毀損しても土地の価値がそれ以上の速度で伸び、トータルな不動産価値は普通伸びるでしょう。また、世界中どの国・都市でも優良物件とカス物件があるわけですが、東南アジアで優良物件を見極めて適正価格で買うことができれば、単体の投資として良いとは思います。
 
でも、東南アジアの人口ボーナスは、実はもう先長くないんです。国によって違いはありますが、どこも少子高齢化が進んでおり、人口の伸びが停滞すれば、今の日本と同様、新築をバカスカ建てるスクラップ&ビルド構造ゆえ建物の価値が経年により毀損し、遠からぬ将来「負動産」の問題を抱えることになるでしょう。
私は、「これから人口伸びる東南アジアで資産価値伸ばそうぜ」みたいなセールストークは、もう時代遅れだと思ってます。だって、多くの国で、人口ボーナス期は間もなく終わるんですもの。

 
遠からぬ将来、人口増加が止まった東南アジアに現出するのは、たぶん、いまの日本と同じ問題。つまり、
1)国民の資産価値を毀損し、人生の選択肢を広げない経済システム
2)限りある木材資源とエネルギー、家族の物語が詰まった建物の使い捨てのシステム
3)街並みやアメニティの破壊。没個性なロードサイドだけ栄える構図
4)建築業者と銀行だけが儲かり、不動産オーナーが豊かにならない時代遅れの社会システム
 
私がどれほど、日本・アジア的な建物スクラップ&ビルドと資産価値毀損を嫌うのか、いくつか実例をお話しします。
 
「首都圏発展都市の不動産価値が下がる!不思議の国ニッポン」
私は千葉県柏市の出身です。ここは典型的な東京郊外ベッドタウン。地方の県庁所在地並みの42万人が暮らす街、住宅開発が盛んで今なお人口が増え続けていますが、ここはある意味、現代日本を象徴する「建物の墓場」。
柏市住民の典型的な住まいといえば「土地つき戸建」。平均45坪くらいの敷地に、カーポートのついた建売の新築木造住宅を30年ローン組んで買って家族で住まう、所有者が年老いたら取り壊され、更地を建売業者が買って似たような木造住宅かアパートを建てて新たな所有者に売る…その繰り返しです。中古住宅を買って住む人は余りいません。
約30年のスクラップ&ビルドのサイクルに合わせてか、30年程度しか使用されない想定の住宅が建てられます。建築基準法や耐震基準は満たしても断熱性能含めた快適性の意味では疑問符のつく、安普請感が否めない住宅が多くを占めます。柏市だけでなく、千葉市でもさいたま市でも、首都圏ベッドタウンはどこも似たり寄ったりです。
 


 
そんな場所に育った私、根源的な疑問が、3つあります。
1)なぜ、冬暖かく夏涼しい、年中快適に過ごせる住宅をつくれるのに、そうしないの?
2)子孫の代まで、100年は住めるような住宅がつくれるのに、なぜそれが一般化しないの?
3)なぜ、30年ローン組んでマイホーム買っても、ローン完済する頃には建物の価値がほぼゼロになってしまうの?
 
結局、中古住宅の価値が正当に評価されない日本の社会システムが諸悪の根源ではないでしょうか?
柏市内にも多様な住宅ニーズがあります。パワービルダーの格安な建売住宅を買う人ばかりではなく、長持ちする二世代住宅を建てる人、こだわりのデザインで注文住宅を建てる人も大勢います。でも彼らはもれなく、築後22年建つと木造住宅の価値が帳簿上ゼロになり、ローンも組めず流通もせず資産価値を毀損する、他の先進国に例をみない変なシステムのもとで暮らしています。
 
そもそも、首都圏の柏市に所在する不動産の資産価値が下がるって変じゃないですか?ここは毎月、最高人口記録を更新し続けるような発展都市。ここ10年だけでもつくばエクスプレスが通りショッピングモールが多数できて、誰がどうみたって生活利便性が向上しています。
諸外国では柏市のような都市部に家持ってれば資産価値が普通は上がるはずで、いつでも売りたい時に良い値段で売却して特養老人ホームに入るなり、南の島に移住するなりして、人生の選択肢が広がるはずなのに、不動産が日本にあるとそれができない。
私の身の回りでも、マイホームが二足三文でしか売れない、都内のマンションに住み替えたくてもお金が足りなくてできない、みたいな恨み節ばかり。30年間一生懸命働いてマイホームのローン完済した挙句にそんな生活しか手に入らない日本、どう考えても変じゃないですか?
 
「日本有数の観光都市で良質な伝統家屋が駐車場になる不思議」
地方都市に行くと、柏市とは少し違うかたちで日本のシステムの歪みが立ち現れます。首都圏と比べると住宅需要が乏しく、かつクルマ社会なので、住宅の跡地がたいてい駐車場になるのです。
中古住宅はスクラップして更地化、跡地は駐車場に…それが既定路線になっていて、金融機関もその方向で融資するのです。
その結果、金沢市や函館市といった、全国有数の観光価値を持つ都市の良質な既存建物が次々と消えつつあります。
「加賀百万石のお膝元」金沢市は様々な建築様式の町家や茶屋、武家屋敷が多数残る街で、その景観が観光上の強みにもなっています。市の行政も伝統的な日本家屋が残る街並みを保護しようと先進的な取り組みを続けています、その努力は素直にリスペクトしますが、
悲しいかな金沢市は日本にあり、この国の社会システムと金融は建物使い捨てが前提になっています。行政の努力で町家を1戸救えても、その間に多分、何十戸の町家が取り壊され更地化されています。
これ、何とかできないの?日本の原風景ともいえる金沢の木造建物が消えて街並みが壊れていくのを座視できません。
 
私が欧米不動産を好むのは、アジアと対極にあって建物の使い捨てをしないシステムだからです。古い躯体を大事に使いつつ設備を入れ替えて近代生活できるようにしたり、取り壊さずに屋上にフロアを付け加えたり・・・あらゆるタイプのリフォーム、レノベーションが盛んで、それゆえ、建物が経年しても価値が下がらない仕組みになっていることです。
建物の価値が落ちない代わりに、欧米は大都市を除き土地価値は概して安くて上がり方も緩やかですが、それでも建物+土地の資産価値をトータルすれば、東南アジア以上の投資パフォーマンスが出やすいというのが正直な実感です。
 
「建物を使い捨てしない!欧米の物件再生事例」
私は仕事柄、欧米各国の建築物をたくさん見ています。特に欧州は伝統的に石造りの建築文化で、住宅はメンテしながら数百年使い続けるのが当たり前。日本と比べて新築供給は驚くほど少なく、既存建物の躯体を上手にレノベして近代生活できるように仕上げます。
既存建物の再生は、経済的にも合理にかなっています。かつて建材も人件費も安かった時代につくられた建物には、贅沢な天井高、ゆったりした間取り、凝ったデザインのファサードなどを伴う、良質なものが多いからです。
欧米では築が古いからといって建物の価値が毀損することはありません。きちんとメンテしていれば価値が上がるので、皆、そうします。
以下が私が欧州各国で視察した物件再生事例です。
 
スペイン•バルセロナ…1882年築の豪邸を全面改装して近代的なレジデンスに再生し「新築」として販売。入り口ドアの豪壮さ、天井高が圧巻。

 
ドイツ•ミュンヘン…16世紀築、教会や刑務所として使われていた建物の躯体を活かし、一部を増築して近代的レジデンスとして再生、販売。

 
ラトビア•リガ…19世紀築の工場躯体を活かしてレンガを磨いて再生。共用部分に柱を残して工場であった過去を伝えている


 
いまの日本は、概して、新築つくっても売れない時代に入りました。中古住宅流通が相対的に増え、その取引システムや、建物の性能評価システム等の構築が急がれています。欧米はその点、日本の先を行ってて中古住宅の流通が主流であり、リフォーム、リノベーションの知恵や方法論を豊富に持っています。欧米への渡航が多い私はそれに触発を受けて、「日本でもなんとかしたい」と思うわけです。東南アジアだけ行ってたら決して分からなかったでしょう。
 
「金澤町家ひとつ残すため現金3000万円を投じた男のひとり蛮勇記」
2017年12月、積雪の残る金沢市で、私は縁あって、町家をひとつ買わせていただきました。
観光地「ひがし茶屋街」から徒歩8分、北國街道に面した築115年の町家。金沢を代表する文豪·徳田秋声の小説「町の踊り場」にも出てくる由緒ある旧家で、明治、大正、昭和を生き延びて平成の世まで残った風格ある木造家屋。長い年月の間、所有者が何度も変わり、葉茶屋や和菓子屋として、金沢の人々の暮らしのなかで生き、物語を紡いできました。
今は旅館業(簡易宿所)として改装中ですが、写真見れば分かるように、雪国らしい6寸柱といい木材の組み方といい、惚れ惚れするほど見事な日本家屋です。雪捨て場として設けられた空間も中庭(パティオ)みたいで情趣があります。

 
そこまで建築的、文学的価値のある建物でさえ、築が古いからといって機械的に価値ゼロとみなされるのが日本のシステム。もし私が買わなかったなら、たぶん、駐車場になっていたことでしょう。
お恥ずかしい話ですが、私、この建物の再生•収益化に伴う事業資金の融資づけに未だ成功できていません。土地建物の購入費、諸経費、諸税、火災保険、設計、施工工事、家具備品、宿泊施設としてのマーケティング費用を含め、総事業費3000万円ちょっとかかるのですが、銀行にはこれまで7行融資チャレンジして全て断られています。
築が古いから担保評価が出ない、東京在住の私が遠隔地(金沢)の物件を保有するモデルだから信金信組で取り組めない、町家再生による旅館業自体が新しい事業だから収益性が評価しにくい…いろんなハードルがあり、それをまだ突破できないのは、私の事業者としての実力や経験が至らないからでしょう。でも、115年の風雪に耐えたこの素晴らしい建物を後世に残すと決めた以上、何とか費用を捻出して事業化します。
徳田秋声ゆかりの旧家といえども、いまの日本のシステムでは取り壊されるのが既定路線。それに納得できなくて反旗を翻そうと粋がってみたけれど、いまの私の甲斐性では金沢の町家ひとつを救うのが精一杯というところです。
 
一事業家として本音を言うと、地元の金融機関に何とか頑張って取り組んで欲しいです。担保評価出ない、地元の人じゃないから取り組みにくい、既存の商品設計に馴染まない、上司や審査部に通しにくい…それは理解しますが、それでお断りしてる間にも金沢の街中で良い民家がどんどん消えてるんです。金沢のため、北陸地方のため、そして日本の長期的な利益を考えた時、今までのやり方を続けてていいんですか?
事業家の手元現金と、行政の予算だけでは金沢の景観を守れないんです。クラウドファンディングも良いけれど、ある意味社会の公器として、世の中に必要な事業に資金を回す役割を持っているはずの銀行に支援モデルを考えて欲しいです。業務横断的に考えれば必ず解が見つかるはずだし、銀行が支援するなら私みたいな事業家がどんどん出てくるはずだから。手元の現金3000万円を投じる、その重みを知った人間が発言していることを、真摯に受け止めて欲しいです。
 
「最後に、前所有者からの嬉しいお言葉」
最後に、私が買わせていただいた金沢町家の前オーナーの娘さんから、嬉しいメッセージをいただいたので引用します。
「古い建物だったので、壊して駐車場にするくらいしか考えていなかった私たち家族にとって、鈴木様とのご縁で、また新たな価値ある建物として復活すること、本当に胸が熱くなる思いで写真と記事を読みました。両親も本当に喜んでおります。完成が待ち遠しいですね。素晴らしい施設になるよう、応援してます!」
 
本当に、町家買って良かったです。金沢の皆様の期待に応えるためにも、建物を維持し頑張って運営しなければと思いました。
皆の知恵を合わせて、お金を上手に使って、建物と街を大事にする日本をつくりたいです。特に、建物を守るオーナーが金銭的に報われることが絶対に必要でしょう。
建物と街を大事にすることは、日本の生活文化を守ることでもあります。21世紀の世界で日本が輝くために必要だと思います。そのヒントを得るために、私はまた欧米に出かけて不動産を見にいきます。

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