おはようございます。国際不動産エージェントManachanです。今回は、国内不動産ねた。舞台は、東京のベッドタウン「埼玉県春日部(かすかべ)市」。
春日部の有名人といえば、この人
「ドラえもん」、「ピカチュウ」と並ぶ、日本が生んだ世界のヒーローは、春日部出身!
春日部は、交通アクセスに恵まれた都市
東武スカイツリーラインで、東京都内直結。野田線(アーバンパークライン)で大宮、柏方面にも行ける。
柏市出身の私にとって、春日部は身近な街です。そこは、家族で東北道方面にドライブへ行く時、岩槻インター乗るために必ず通る場所であり、また、東武電車で日光方面に行く時に、必ず乗り換える駅でした。
私の子供時代、柏から東武野田線に乗って、一面の原野だった七光台駅(野田市)を通り、江戸川を渡って春日部駅で乗り換える家族旅行。母が、「この街は、空が広いねえ」と言っていたのを覚えています。当時、柏の駅前には「そごう」、「高島屋」、「丸井(ファミリかしわ)」などの百貨店が並んでいたのに対し、春日部の駅前は高い建物がなく、長閑な雰囲気でした。
あれから30年…柏の駅前は、さらに「丸井本館」、「高島屋ステーションモール別館」など、百貨店がさらに増えたのに対し、春日部の駅前は、目に見える変化がありません。南隣の越谷市が、「レイクタウン」や「南越谷VARIE」など、劇的な商業発展を見せたのと比べると、春日部市は良くも悪くも、(ロードサイドは別として)「昔と変わらない」たたずまいを見せています。
この春日部市、首都圏ベッドタウンであるにも関わらず、平成13年(2001年)をピークに、人口が減少傾向にあります。現市域(旧春日部市+旧庄和町)の人口は、2001年に24万2千人を数えたのが、今は1万人減って23万2千人前後。人口が微増する年もありますが、基本的には減少トレンドに、歯止めがかかっていません。
春日部市の周囲をみると、西隣の「さいたま市」、南隣の「越谷市」が増加傾向。東隣の「千葉県野田市」でさえ微増なので、ある意味、「春日部一人負け」の印象さえあります。
この課題に対しては、「かすかべ未来研究所」による秀逸なレポートがありますが、そこから引用すると、人口減少の主な原因は、「近隣市への転出超過」(=社会減)。
平成 17 年(2005 年)から平成 22 年(2010 年)の間 移動が多い地域は、越谷市、さいたま市岩槻区、草加市、足立区、野田市と、東武スカイツリラインや、東武野田線沿線の自治体が多い状況となっている。そして、ほとんどの自治体に対して転出者数が転入者数を上回る転出超過となっている.
で、ここからが本題になります。
私たち不動産業者からみると、「今のままでは、春日部市の人口減って当然」だと思います。なぜなら、「春日部市は道路後退(セットバック要件)が厳しくて建物が建てにくい」のです。
建築基準法によれば、幅員が4m未満の道路(法42条2項道路)に接する敷地に、建物を建築する際には、道路の中心線から水平距離で2mの位置まで敷地を後退させなくてはなりません。この後退が「敷地のセットバック」といわれるものです(詳しい解説はこちら)。
道路後退の位置は2mないし3m(つまり幅員が4mないし6m)と定められ、どちらにするかは自治体が決めて良いことになっています。春日部市の場合は道路後退3m(幅員6m)を原則としています。市のホームページから引用しますと、
市内の道路を利用しやすいよう、また緊急車両の通行がスムーズに行えるよう道路の幅員を6メートルにしていきます。建築基準法の道路の種類により、幅員が6メートル未満の道路は建物の建替え時に中心線から3メートルの後退が必要です。
確かに道路交通の観点からいえば、幅員を6m確保するのは望ましいでしょう。ですが人口減少に悩む春日部市の場合、この厳しい基準が人口流入を抑制しているような気がしてなりません。人口過密で狭い街路も多い首都圏では、セットバック2m(幅員4m)で良いと定める自治体が多いので、春日部市が相対的に厳しくなっているのです…
先日、私が取引しようと思った春日部市内の土地で、こんな事例がありました。東武野田線の駅から徒歩5分、(かつては賑やかだった)商店街もある主要道路に面した、28坪の古家つき土地です。接道は2面あり、敷地前面は主要道路(幅員6ⅿ)、後ろが生活道路(同4.2ⅿ)に面しています。
28坪しかないので、戸建の建売業者に売るにもギリギリの当落線上(この地域では、戸建の敷地は普通40~50坪)。ただ、敷地の形がよくて駅近なので、28坪でも何とかなるだろうと思っていたら、甘かった。
春日部市は、敷地後面の生活道路から、道路後退3ⅿを要求するのです!
その結果、セットバック後の有効宅地面積が25坪になってしまう!
「えっ、まじで!」・・・私は耳を疑いました。確かに、行政が生活道路の幅員を6ⅿにしたいのは分かる。でも、この敷地を含め、地域の住民は皆、商店街のある幅員6ⅿの主要道路を使っています。後ろの生活道路なんて利用する人もほとんどいないし、日本中が財政難の折、こんな優先順位の低い道路を6ⅿに拡幅する工事が、私の目の黒いうちに実現するとは思えない。
この地域で、有効宅地25坪に削られたら、買ってくれる建売業者がいるかどうかも微妙だし、仮にあっても、クズ土地価格並みに買い叩かれるでしょう。都内とか川崎横浜なら25坪でも戸建用地として十分成り立つでしょう。でもここは埼玉の春日部、しかも都心直結でもない「ギリギリ首都圏」なのです。28坪と25坪の違いは、宅地として使い物になるかどうかのボーダーラインに関わるので、極めて重大です。
私がオーナーなら、間違いなく絶句するでしょう。
一体だれのために、何のために、こんな施策をするの?
せっかくの、駅5分の土地が死んじゃうじゃん!
国民の資産価値を何だと思ってるんだよ!
もっとも、明るい材料もあります。先に紹介した「かすかべ未来研究所」のレポートでは、市の人口減少に対する健全な危機感が見てとれます。大事なので、太字で引用しますと、
人口を増加させていくためには、地域競争に勝ち抜いていく必要がある。選ばれる自治体となり、地域競争に勝ち抜いていくためには、周辺地域との差別化を図っていく必要がある。そのためには、本市の現状をしっかりと調査し、分析することにより、何を実施していけばよいか検討していくことが重要である。
そこで、当研究グループでは、本市の現状、そして近隣自治体の状況を調査し、本市に適した事業として、「定住応援サイト」の開設と、「若者定住支援」の2つの事業の提案を行った。
「定住応援サイト」と「若者定住支援」は、是非やるべきでしょう。それに加えて、私たち「不動産業者の知恵」を活用して、宅地取引の実態把握や、道路後退制度との関連を研究した上で、首都圏ベッドタウン春日部市として「あるべき地域のデザイン」を描くことを、強くおすすめします。
不動産業者のセンスでいうと、春日部市が人口減少を防ぎ、地域の魅力を取り戻すために取り組むべきことは、二つ。
・駅徒歩圏エリアの規制緩和(道路後退を2ⅿにする、駐車場附置義務撤廃、建ぺい容積率緩和等)と、人口集中のための施策
・それ以外のエリアの成長管理施策(「地主の土地活用」と称した、無秩序な建売アパート建設等に対する予防的規制と厳格な運用)
21世紀、大都市ベッドタウンとしての生き残りは、「選択と集中」、「コンパクトシティ化」が基本。駅近エリアには人とインフラを集中させ、商業・医療などの利便施設を集中させる。それ以外の地域はスプロール化を防ぎつつ、計画的に整備していくことが大事だと思います。